知の望遠鏡

文系教師と理系研究員の本の紹介を中心としたブログです。

ー敢えて聞く。お前に心はあるか。ー『機巧のイヴ』

 

機巧のイヴ

機巧のイヴ

 

 

 

SF時代小説というジャンルになりましょうか、ロボットと時代物という正反対の成分をぶっこんだ面白い小説でした。外連味の効いた舞台設定が特徴的で、

・天府城を拠点に国を支配する幕府

・女人にだけ帝位継承が許される天帝家

オーバーテクノロジーの結晶、美女の姿をとった機械人形<伊武>

 

などなど他にも、歴史用語っぽくて作者の造語である“エセ歴史用語”がふんだんに出てくるところが本作のリアリティを増しています。そういった、それっぽい雰囲気のある作品が好きですね。

 

初めて『攻殻機動隊』や『エヴァ』を観たときと同じようなインパクトを受けました。江戸時代っぽいローテクの時代設定の中で超高性能人型機巧人形が存在するわけないじゃん!!とツッコミたくはなるのですが(笑)

 

さて、本作の重要人物たる幕府精錬方手伝にして機巧人形技師・釘宮久蔵の台詞に

 

ーさすがの儂も、心の内まで覗き込むことはできぬ。例えば完璧に人に似せた機巧人形があったとして、表面では人と同じように振る舞い、泣き、笑い、心豊かな人に見せかけていたとしても、それが本当に人間らしい感情から生まれてくるものなのか、それともバネは発条や歯車の仕掛けによって演じられているだけなのかは端から見ていたも、残念ながら儂にはわからぬ。実に興味深い。ー

 

と、ありまして、また、作中で何度か人間と機巧人形の違いについて交わされる場面では、読みながら高度な技術で生身の人間を模した機械に心は如何にして宿るのか?と少し考えさせられます。

 

生身の人間も、神経細胞という情報素子の集積体である脳で意識なるものが生まれるいるようですし、心なんて実体なきものの在り方について、『攻殻機動隊』を観たときと同じ感情になりました。以前の記事、「意識」の生物学的意義は、神経細胞の維持であるー『唯脳論』ーでも書きましたが、この手のSF作品は色々考えたりできるので好きですね〜

 

これ、アニメ化したら面白い作品だと思います。おそらく、『攻殻機動隊』っぽくはなるのでしょうけども。