知の望遠鏡

文系教師と理系研究員の本の紹介を中心としたブログです。

発生生物学のすゝめ

久しぶりの記事。

 

 昨年末に書店で『人体はこうしてつくられる――ひとつの細胞から始まったわたしたち』という本を見つけた。表紙には頭部の解剖図が描かれているので「解剖学の本かな?」と思い、手にとって流し読みしてみると、どうやら人体発生学についての本らしい。ちょっと紛らわしいんじゃないかこのカバーデザイン?

 すぐに買おうかと思ったけれど、ハードカバーで2700円。持ち運びに不便だし、ちょっと高いと感じた。アマゾンで調べたらなんとkindleに電子版、しかも原著版(英語)が半額の値段であるじゃないか!

 英語の勉強にもなるしkindleの原著版を買った。まぁ、自分の専門分野だし専門用語を除けば、構文自体はそんなに難しくないから読み応えがある。kindleのWord Wise機能が便利で、辞書引きの手間が省けるのであまりストレスを感じないのも良い。

 

 たった一個の受精卵から30兆個もの細胞からなる人体がいかにして作られていくのか?

そのメカニズムを各発生段階ごとに詳しく見ていく構成になっている。

 ざっくり言うと、

・受精卵がとにかく分裂を重ねて細胞塊になる。

・細胞塊の中の空間的位置の違いによって、細胞に極性(違い)ができる

ーーーーこのへんまではイモリの発生と同じーーーーーーーーーーーーーーーーー

・内部細胞塊(胎児になる細胞)と胎盤や羊膜になる細胞に分化(哺乳類だからね)

・卵黄嚢の上に草履状の胚が原腸陥入による3胚葉分化、神経管形成による体軸形成と

 体の管化(3胚葉のどら焼き型構造→竹輪型構造へのトランスフォーム)

・これ以降は複雑なので読んでいただきたい

 

 

 高校レベルの発生学の知識(カエルやイモリの発生ね)があればそこまで難しくないのだけれど、人体発生は基本原理はイモリと同じだがヒトのカタチにするために大きくアレンジしまくっているので、神経管形成あたりまで理解するのに少々時間がかかってしまった。

 

 大学で生物学専攻だったが、人体発生学はあまり詳しくやらなかったもので(どうも医学系の分野になるらしい)。

 

 このダイナミックな発生過程の根幹には、細胞レベルでの空間的、時間的に緻密に設計管理されたメカニズムが動いている。

いかにして発生中の細胞が、自らの位置を把握し、どの行動を起こすべきなのかを決定していく原理は感心するばかりだ。

大学レベルの内容にはなるが、興味ある人には是非とも読んでもらいたい1冊。

 

 古い本にはなるが、三木 成夫の『胎児の世界』、『内臓とこころ』という本も面白いのでおすすめ。これらは比較発生学としての内容となり、脊椎動物の発生過程(Body Plan)は同じOSを使い続けているのがよくわかる内容となっている。

 

 訳本版

人体はこうしてつくられる――ひとつの細胞から始まったわたしたち

人体はこうしてつくられる――ひとつの細胞から始まったわたしたち

 

 原著版

Life Unfolding: How the human body creates itself

Life Unfolding: How the human body creates itself

 

 

 

胎児の世界―人類の生命記憶 (中公新書 (691))

胎児の世界―人類の生命記憶 (中公新書 (691))

 

 

 

内臓とこころ (河出文庫)

内臓とこころ (河出文庫)

 

 

「現実世界」は「アウトプット」でしか変えられない

30歳になった。 

仕事や私事の環境を変えたい、何かやれることはないか?

何となくだが、読書や旅行、博物館に行ったり色々と知ることには積極的ではあったがそれらの体験を発信することが不足していたと思う。

 

学びを結果に変えるアウトプット大全 (Sanctuary books)

学びを結果に変えるアウトプット大全 (Sanctuary books)

 

 

本書いはく

①現実世界はアウトプットでしか変えられない

→読書、映画などインプットしたことはとにかくアウトプットすべし!

 他人に話す、ブログ記事に書くなど手段は何でもいい。

②思い立ったが吉日、躊躇する前にまず始める!

→やり始めれば5分ほどで脳のやる気スイッチがONになる

③脳は同時に3つのタスクしか処理できない

→ToDoリストにタスクを書き出し、脳のワーキングメモリーを空ける

④まずは質より量。とにかく、アウトプットしまくれ!

→インプットしたらすぐアウトプットが理想。インプットした知識の賞味期限は短い。

 

要は、インプットだけしていてもそれは自己満足であり、アウトプットしなければ自己実現には繋がらないということ。

 

なるほど、知識を溜め込むだけではダメ。どんな形でもいいからアウトプットしなけらばならないのか。

とりあえず、できそうなのは

・1冊本を読んだら簡単な感想文にする

→本ブログ、Twitterなど

・仕事でToDoリストを活用してタスク管理をする

→今でもリストは作っているが運用効果が小さい。本書にモデル様式があったのでとりあえずこっちのリストで運用する。毎日わが身に降りかかる雑務処理によってタスクスルーの凡ミスを減らす。

・Before+気付き+ToDo

 という文章下手でもアウトプットができてしまうフォーマットが載っていたので、このフォーマットを使って暫く文章を作ってみよう。会社での報告書作成に応用できそうだ。

 

くらいかな。

ダラダラせずに短い時間で楽しみながらやっていこう。

18歳ときに読んだ哲学本、28歳のときに読んだ仏教本

18歳といえば、高校3年生、大学受験真っ只中でした。

そんなときに読んだ哲学本(笑)です。

哲学本(笑)と書きましたが、とりあえず読んで見てください。

哲学本(笑)と思えたならば、なかなかオタクの教養が高い方です。

どこでこの本を手にしたのかは定かではないのですが、捻くれ者の私にとって衝撃的な一冊でした。副作用として、余計に捻くれてしまいましたが・・・

 

喪男の哲学史 (現代新書ピース)

喪男の哲学史 (現代新書ピース)

 

 ざっくりと言ってしまえば

 

モテないから(非リア充)哲学的思考を行わざるを得ない

モテる者(リア充)は人生に満足しているから哲学的思考なんかしない

 

ということだそうです。

 

そして、哲学者の思想を

モテ VS 非モテ

の構図で展開していく点が面白いです。

 

なるほど、そういう側面から解釈して行くのか。

プラトンから現代に至るまでの哲学の系譜が解説されている割には、内容は難しくなく意外と読みやすかったという当時の印象です。

 

例え話や解説文にアニメ・ゲーム・マンガネタが満載なのがこの本の特徴。

ほぼ全ページに元ネタの解説が注釈されており、むしろこっちの解説の方が面白かったりもします。

 

さて、お釈迦様が出家したのが29歳のときだったそうです。

自分を取り巻く環境や人生そのものに不満や苛立ちを感じた28歳の茸氏。

何となくお釈迦様が出家を決意した気持ちが想像できなくもないでもありません。

そんなお年頃なのでしょうか。

そんなときに見つけた一冊です。 

 

仏教思想のゼロポイント: 「悟り」とは何か

仏教思想のゼロポイント: 「悟り」とは何か

 

 約2000年前にゴータマ・シッダールタ(お釈迦様)が開いた仏教は今では多様な進化を遂げ、世界各地にその地域特有の仏教として存在している。

 

ではなぜ、それらの数多の“仏教”が“仏教”であり続けられるのか?

では、それらの源流(Origin)=ゼロ・ポイントとなる思想は何か?

ゴータマ・シッダールタが説いた仏教の核心は何だったのか?

 

 これらの疑問点を現存する経典を基に、ゴータマ・シッダールタが説いた仏教の核心を再構築、推察しており、この過程が非常に興味深い内容です。

 

一つ例を出すと

 

仏教でいう「苦」とは

 

心が満たされない不満足であること

 

これを肉体的・精神的な苦しみと解釈してはならないということ。

この説明にはすごくスッキリしましたね。

 

内容はちょっと難しめなので、何度か読み返しながら何とか読みきりました。

少し思考の整理ができたように思います。

ご無沙汰しております

ご無沙汰しております、茸です。

 

記事を書くのは昨年10月以来です。

本はずっと読んでいたのですが、なかなか書く気力が湧かなかったので今日までご無沙汰してました。

さて、久々に書き綴りますよっと。

 

今回はそれまでに読んだ中で面白かった本を4冊紹介しようと思います。

 

①「こわいもの知らずの病理学講義」仲野 徹

こわいもの知らずの病理学講義

こわいもの知らずの病理学講義

 

 

読んで字のごとく、病(やまい)の理(ことわり)の学問。

いわば、病気はどうしてできてくるのかの学問。

タイトルは重厚感ありますが、内容は平易な言葉で書かれていて、非常に分かり易い!

内容は結構高度なんですけどね。

病理の種類としては、血栓、貧血、がんがメインとなっています。

これらの病気がどんなメカニズムで起きてしまうのか丁寧に説明されています。

病気の原因を正しく理解することって重要ですね。

病気に関する情報が氾濫する昨今においては特に、何が正しくて何が嘘っぱちなのかを判断するのは自分なので。

 

②「『代謝』がわかれば身体がわかる」大平 万里

「代謝」がわかれば身体がわかる (光文社新書)

「代謝」がわかれば身体がわかる (光文社新書)

 

この本、生物学を学んだ者として非常に面白かった1冊。

改めてきちんと書評しますが、とりあえず簡単にご紹介。

東京の鉄道網のように複雑怪奇な細胞内の代謝経路がわかりやすく整理されている。すごい!!ほんと、勉強になりました。

ざっくりいってしまえば、代謝というのは細胞というブラックボックス内で連続的に実行され、厳密にコントロールされた化学反応の連鎖です。細胞、そしてその細胞の集合体である我々の身体は食べたモノでできているということ。

とにかく、これを読めば巷に溢れる

〜抜きで痩せる!

〜を食べれば痩せる!

〜食べて美肌効果!

などの胡散臭いダイエット業界の売り文句には騙されなくなります。

少し脱線しましたが、3つの代謝系に分けて説明されています。

・炭水化物代謝

・脂質代謝

アミノ酸代謝

いずれの系においても、「アセチルCoA」という物質が重要な役割を担っています。

エネルギー(ATP)産生にも生体構成成分(炭水化物、脂質、アミノ酸)合成の両方に関わっている何ともすごい物質なんですよ!!

 

③「EPITAPH 東京」恩田 陸

EPITAPH東京 (朝日文庫)

EPITAPH東京 (朝日文庫)

 

 読み終えて「?」となった1冊。

エッセイ本なのか?それとも小説なのか?

茸氏にはぼんやりとした気分となりました。

東京という都市の在り方(単に日本の首都であるということではなく)について、筆者の考察(というか皮肉)があり、これがまたナルホドなぁと共感できる。

 

東京行きたくなりました。

 

④「室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君」阿部 暁子

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 (集英社文庫)

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 (集英社文庫)

 

ジャケ買いしました(笑)

姫君が可愛かったのでね。

冗談はさておき、室町は南北朝時代足利義満世阿弥の異色のコンビに南朝の姫君とくればこれは読むしかない!!

あまり小説の題材にならない室町時代ということで新鮮でした。

将軍、皇女、能楽師がタッグを組む話なんてそうありませんよ。

天真爛漫なヒロインが出てくる物語はいいですね。

人物造形も良くできてて、教科書的な人物像をぶっ壊してくれました。

これ舞台化したら面白いのになと思いました。

 

今回はここまで。

次回はもう少し詳しく書こうと思います。

 

 

 

 

恐竜は鳥か?鳥は恐竜か?「鳥類学者 無謀にも 恐竜を語る」

 

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)

 

 

恐竜のイメージをぶっ壊してくれた一冊。

 

恐竜といえば、映画「ジュラシック・パーク」に出てくるような、すばしっこく動き回るヴェロキラプトル、猛スピードで襲いかかってくる凶悪なティラノサウルス、他にもゲーム「モンハン」に登場するような造形を想像すると思う。

 

茸氏の恐竜に対するイメージも上述の通りであった。

 

本書を読むまでは。

 

最近の研究成果によると、今までの恐竜の常識が随分と様変わりしているようだ。

 

本書は鳥類学者である著者が、

「鳥類は恐竜の一グループから進化した=鳥類は恐竜だ」

という前提に立ち、現生する鳥類の生態から恐竜についてあれこれ考察している。

 

考察の仕方がユニークに富んでいて読むのが楽しい。

軽快な語り口、ちょくちょく小ネタを挟みつつ、無駄知識を突っ込んでくるユーモアが良い!

例えば、大型草食恐竜の群れをモビルスーツ一個大隊と喩えている。

 

さて、恐竜化石の研究結果と現生鳥類の生態から考察される塗り替えられた恐竜像はというと

①羽毛を纏った恐竜は意外に多かったっぽい

・始祖鳥や現生鳥類に繋がる、やがては飛行に特化してったグループ

 →これはよく図鑑や教科書で載っているのでお馴染みかと

・飛行には特化せず、保温やディスプレイ用に羽毛を纏ったグループ(孔雀の飾り

 羽みたいなもの) 求愛や威嚇等のディスプレイに用いるため、これらの羽はカラフルであった可能性が高い!地味な色の鱗の体表ではなく、カラフルな羽毛を纏ったモフモフ恐竜だったぽい

→書店で恐竜の最新図鑑を開くと、ティラノサウルスが羽毛を纏ってモフモフでした

 

恐竜の歩き方は首振り歩き

映画やゲームで観るような二足歩行でカッコよく走る恐竜!

しかし実際は・・・

ハトが首を前後に振りながら歩く、若しくは、スズメがホッピングしながら歩くような歩き方をしていた可能性が高い!

 

「鳥類は恐竜の一グループから進化した=鳥類は恐竜だ」という前提に立てば、鳥類の形質は祖先である恐竜にも共通であると考えられるため、当然恐竜の歩行形態も鳥類のそれと同じであった可能性が高く、従って、凶悪肉食恐竜のティラノサウルスヴェロキラプトルもハトポッポの如く首を前後に忙しく振りながら大地を闊歩していたのだ!

 

ほんと、カッコイイ肉食恐竜のイメージぶち壊しである。

 

さえずる恐竜、されど咆哮はせず

図体の大きい恐竜だが、広い大地の上でパートナーを見つけるのは困難である。

パートナーを見つけるためには己の存在を知らしめる必要がある。

 

では、どうするか?

 

鳥類では、囀りや甲高く鳴くことで異性に己の存在を知らせる。

異性の視界に入れば飾り羽をこれでもかと見せつけての必死のアピールを敢行するのである。

美しい声で囀るもの、ド派手な羽を見せつけるもの、華麗なダンスを見せるのもなど様々である。

 

②と同様、恐竜の求愛行動もこれに似たものではないかと考えられる。

また、頭骨の形態から鳴くことはできたらしいということはわかっている。

ただし、威勢良くガオーッ!!と咆哮することはできなかったようだ。

で、遠くにいる異性に己が存在を知らせるために発する鳴き声はなんと

 

プープー   

ピィーピィー

 

というものだったらしいのだ!

なんとも拍子抜けの鳴き声だがこれにはちゃんとした推察があるのだが割愛、詳細は本書で。

 

 

日々常識が変化していく科学研究の分野はこれだから面白い!

もう10年すると恐竜の常識はまたさらに違ったものになっているだろう。

 

「鳥類は恐竜の一グループから進化した=鳥類は恐竜だ」

 

なるほど、飛行に特化した恐竜の子孫が鳥類であると。

 

そう考えると、我々の身の回りには空飛ぶ恐竜たちで溢れているということだ。

 

 

別件ですが、恐竜図鑑の横にカンブリアンモンスター図鑑があり、パラパラ見ていて驚いた。

  

 

「歯の生えた謎」の名を冠するオドントグリフスが茸氏が知る限りにおいては遊泳型のまさに泳ぐ洗濯板であったのだが、最新研究によると水底で藻類をこそぎ取りながら這い回るナメクジの様な軟体動物であることが明らかになったという。

 

茸氏のオドントグリフスについての知識が20年ぶりにアップデートされたのだが、さすがにショックだった。

 

真実とは常に残酷であることよ。