先輩と黒髪の乙女の奇妙な恋ー「夜は短し歩けよ乙女」ー
読者諸賢、ごきげんよう。
今春、森見登美彦氏の名作「夜は短し歩けよ乙女」が映画化されるとのこと。
勿論、私は映画を観に行くつもりである。
その時、横に黒髪の乙女が居れば完璧なのだが、世の中は厳しい。
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良い機会なので今一度、「夜は短し歩けよ乙女」を読み直してみた。
10年ぶりだ。
大学院を卒業した今現在、このくされ大学生たる「先輩」が立ち回る小説を読むのは、大学生になりたてほやほやの頃に読んだのとはまた違った趣があった。
アニメ版「四畳半神話大系」を観ていたため、以前より話のイメージをしやすかったというのが大きいのかもしれない。
樋口師匠、羽貫さんら「四畳半神話大系」に登場する人物も数人いるため、私の脳内で生き生きとキャラクターが動くのである。
「四畳半神話大系」がアニメ化されたのも最早7年前。
時が経つのは早いものである。
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10年ぶりに読み返しても変わらぬのはやはり森見節とでもいうべき独特の文章である。
ひねくれた主人公のモノローグを硬派な文体にのせ、その語り口はどこまでも知的であり読み心地が良い。
登場人物たちもどこまでも阿呆であるが、教養に裏打ちされた阿呆であり、決して馬鹿ではないところが、作者のキャラクター造形の巧いところなのであろう。
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そんな森見節の作品に多感な大学1回生が食いつかぬはずはなく、私は見事に森見作品の餌食となったのである。簡潔にいうと、どハマりした。
そういえば、私がこの小説を読んだのはもはや10年前、ちょうど大学生になりたての頃であった。
当時の私は、大学生になればめくるめく薔薇色のキャンパスライフが私を待っていると思っていた救いようなない阿呆であった。
作中の「先輩」が着々と遂行していく【ナカメ作戦】に私は既視感を覚えずにはいられなかった。
【ナカメ作戦】
それは、なるべく彼女の目にとまる作戦を略したものである。
一見すると阿呆ここに極まれりといった作戦だが、心当たりのある男子諸君らもいるであろう。
私もその阿呆の一人である。男子高校生とでもあれば、意中の女子がいてもおかしくないだろう。
いや、むしろそれが健全たる高校生というものではないか。
そして、少しでも彼女とお近づきにならんと、あの手この手の策を弄しては無残にも散っていくのが大半の男子高校生の姿であろう。当の私もそちら側であったことは認めざるを得ない。
意中の彼女に会うべく【ナカメ作戦】に類似した作戦を行っていた時期が私にもあった。
唾棄すべきは、薔薇色のスクールライフの好機は目の前にぶら下がっていたのかもしれなかったにもかかわらず、ただひたすら彼女の外堀を埋めることに邁進し、本丸へ攻め込むことを恐れたことだ。
成就しなかった恋ほど、書きたくないものはない。
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登美彦氏の小説には、鴨川デルタ、下鴨神社、京都大学、大文字山、水路閣、琵琶湖疏水、四条大橋、木屋町、先斗町などなど多くの洛中の場所が出てくる。細かく描写された風景は読み進めていくうち、実際に洛中を彼らのように闊歩したくなる気を起こさせる。
つい先日、「森見登美彦の京都ぐるぐる案内」なる本を買った。
森見作品に登場する様々なロケーションがスナップ写真と小説の一場面がセットで載っており、知的な京都ぐるぐる巡りができる仕様となっている。
所謂、聖地巡礼ガイドブックのようなものだ。
京都へ出かけての寺社仏閣巡りも良いものだが、文学作品の聖地巡礼というのもやってみたいものだ。
今年の5月の大型連休には上洛し、寺社仏閣&森見作品舞台地巡りをやろう。