知の望遠鏡

文系教師と理系研究員の本の紹介を中心としたブログです。

「働き放題ブラックプラン」化する労働『ブラック企業~日本を食いつぶす妖怪』

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

 

 この本は、タイトル通り、いわゆる「ブラック企業」の実態を実際の話を取り上げながている。特に、新卒の若者がブラック企業に就職し、辞めたくても辞められず、心を病んでしまうような事例を数多く取り上げている。20代後半の自分としては、他人事ではないと感じる。

 ブラック企業の問題が話題になると必ず「じゃあ辞めればいいじゃないか」という意見が必ず出てくるが、本書は、なぜ「辞められないのか」ということを分析しているので、そういう意見を持っている人は是非読んでもらいたい。

 ブログの自己紹介でも書いているが、僕の仕事は教員だ。この仕事も、最近いろいろ新聞などで労働環境のブラックぶりが取り上げられることが多くなった。モンスターペアレント、学級崩壊、いじめ、部活の休日出勤など挙げればきりがない。

 これらの問題はいずれ他のところで取り上げるとして、今日話しておきたいのは残業代についてだ。

 教員に残業という概念はない。基本給にほんの数%上乗せされて毎月支給されている。17時に帰ろうが、22時に帰ろうが、みんな一緒、休日出勤してもしなくても、みんな一緒。いわゆる定額残業制。またの名を、「働き放題ブラックプラン」という。管理職的に見ればお得なのであろうが、ほとんどの教員は大損である。普通の民間企業に働いている友人が、働いた分だけ残業代をもらっている話を聞くと、憎くも羨ましく思える。

 この定額残業代というシステムをなくさなければ、教職を問わず長時間労働の問題は解決しないと思う。まず、安倍政権の「働き方改革」ではぜひこれを禁止してほしいものだ。

 飛躍するかもしれないが、昨今世の中にあふれている「なんとか放題」という定額でいくらでもできてしまうサービスが、社会全体をブラック化させているようにも感じる。飲み放題・食べ放題・パケ放題・かけ放題、定額映像配信サービス、一定額を払えば送料無料などなど・・・そして行き着いた先が「働き放題」なのだ。

 僕たちも、消費者として意識を変えなければいけないのかもしれない。定額でやりたい放題やってるのは自分も同じだ。使った分だけきちんとお金を払う、この原則を忘れないようにしたい。「~放題」は安心だけど、節度を守って使うようにしなければならない。その裏で泣いている人がきっといるのだから。

定額残業制と労働時間法制の実務

定額残業制と労働時間法制の実務

 

 

諸々の執着を捨てよう『脱「臆病」入門』

脱「臆病」入門

センター試験です。大寒波の中、己の人生を賭けた戦いに挑む受験生の皆さんは大変ですね。私も10年前はそんな受験生の一人でした。あれから10年が経ち、あの頃は男子高校生だった私も今では28歳のアラサーとなりました。

 有名難関大学に入れば人生安泰‼︎とまでは申しませんが、行く大学によってその後の人生に大きく影響することは間違いないと思います。大学に行くとは、たくさんの選択を同時にすることだからです。優先順位は人それぞれですが、どの大学に入りたいのか?何を学びたいのか?一人暮らしをしたいか?など。自分の願望を成就させるために必死に勉強に励むわけですが、全国の受験生との競争に勝ち抜かねばなりませんからそう簡単にはいきませんね。

 模試の結果に一喜一憂したり、できたと思っても上には上がいてすぐに現実をつきつけられたり、苦手科目をなかなか克服できなかったりと、受験生の苦しみの種は尽きることがありません。

 私も年末頃から二次試験が終わるまでイライラしっぱなしでした。勉強ができないという不安ではなく、「受験に失敗したらどうしよう・・・」という未だ先のことに不安を覚えていました。

 なぜでしょう?

 当時、県外の旧帝大の理学部を志望しており、最新の生物学を学び、都会(街)での悠々自適な一人暮らし、そこでの薔薇色のキャンパスライフを掴んでやる‼︎と躍起になっていたのです。これが、私の受験における勝利条件(達成目標)となっていました。

 すなわち、受験に失敗することはこの願望が一気に足元から瓦解してしまうことを意味していました。自分の思い通りにならなくなることが本当に恐ろしかったのです。そのために必死こいて勉強に励んだ結果、センター試験は上々の出来でして、志望校への道も少しは近くなったように一時の充実感に浸っていました。

 しかし、センターリサーチの結果は残酷でした。私が高得点をマークできたということは同等、それ以上の受験生はごろごろいるということでもありました。冷静になって考えればすぐわかることなのですが、当時はセンター試験が終わった直後で不都合なことは考えたくなかったのかもしれません。結局のところ、志望校の合格判定はそれまでの模試の結果と同じでした。自分の思い通りにいかないことほどイライラすることはないですね。

 さて、私の身の上話はこの辺りにいたしまして、今回は若いお坊さんの書籍を紹介いたします。本を読んだだけで「苦」がなくなるわけではありませんが、無意識のうちに心にかかったバイアスをニュートラルに戻すきっかけにはなると思います。

 仏教での「苦」とは、「自分の思い通りにならないこと=不満足の状態」であると説かれています。本書ではこの「臆病であるという苦しみ」の原因が、「自信不足」、「自意識過剰」、「存在の不安」という心のはたらきにあると言います。この3つの観点を中心にして「苦(本書では臆病)」の原因にアプローチして、その対処法がいくつも紹介されています。ちょっとした空き時間に5、6ページくらい読むのがちょうどいいです。

 「苦」は過去のことに拘っていつまでも考えてしまうこと、未来のことに対して漠然とした不安を抱くことで、「自分の思い通りにいかなかった、あるいは思い通りにならないかもしれない」という不満足感によって生じてしまうのだと思います。つまりは、過去と未来への執着だと思います。

 「今を、ただありのままに生きる。」

シンプルですがこれを実践し続けるのは大変に困難でしょう。もし簡単にできていたら、今や私もブッダになっておりますよ。

  まずは、自然体の自分から離れないような生活改善を少しずつはじめていこうと思います。

ビザンツは男のロマンや!『生き残った帝国ビザンティン』

生き残った帝国ビザンティン (講談社学術文庫 1866)

まず最初に自分の思い出について語らせてほしい。

自分は、歴史好きが高じて、今の仕事についている。

歴史が好きになったきっかけ。
その1:一番最初に買ってもらったゲームが、なぜか「信長の野望」。
その2:小学校5,6の時に三國無双にハマったこと。
(このことはまた別のときに語りたい。)

そして、『世界史フラッシュ』にハマったことだ。

今日はそのことで話したい。

当時はまだインターネットも常時接続が当たり前じゃなく、ダイヤルアップ。Youtubeニコニコ動画みたいな動画共有もなく、フラッシュ全盛だったころだ。(ネット代金で何万もかかって親に怒られたことを思い出した。)

友達が少なかった自分は、まわりが「おもしろフラッシュ」とかで盛り上がっているころ、俺は違うぜ、というに世界史フラッシュを見ていた。(この中2病的な流行り物を忌避する姿勢は、今も昔も変わっていない。)

これが当時のサイトである。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-King/2816/flash/link.html

今もちゃんと残っているし、ブラウザの「お気に入り」もずっと登録してある。でも動画をクリックしてみると、見れないのも多くなっている。今日紹介したかった動画も、このとおりである。

http://www.geocities.jp/whis_shosin/bizan.html

(最近は、無料ホームページサービスがどんどん潰され、こういう過去の遺産が消えていく。インターネットの「レガシー」をどう保存していくべきなのだろうか。)

なんとか見れないものかといろいろ探してみると見つかった。

www.nicovideo.jp

なんとニコニコ動画に救出されていた(他のフラッシュもYoutubeにあったり)。
著作権的には問題ありあり何でしょうが、レガシーの保存という意味では、とてもありがたい。
ぜひ、まず、観てほしい!

↓観てから読んでね。

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ヒトという超共生体~10%HUMAN-How Your Body’s Microbes Hold the Key to Health and Happiness.~『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れ始めた』

あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた

あけましておめでとうございます。

正月休みは実家で寝正月してました。友人との飲み、普段よりガッツリ食べて、酒飲んでコタツでそのまま寝落ち。そして、然程運動もせずダラダラと過ごした数日間。その結果、カラダに便秘気味、肌荒れなど不調をきたした。人間の健康状態(腸内環境)なんて数日間普段と違う食生活を送るだけでこうもあっさり崩れるものです。

 つい先日、NHKの番組で「サピエンス全史」という書籍がベストセラーということで特集が組まれていた。チラッと見ただけだが、このような内容が書かれているという。人類が小麦などの農作物をコントロールしているようでいて、実際には

「人類が小麦に家畜化されている」

というトンデモ説を展開します。

「小麦から見れば、人間を働かせて小麦(という種)を増やさせ、生育範囲を世界中に広げることに成功した」 

ん?似たような話をどっかで聞いたことがあるな・・・あ!!

キルラキル」だ!!人類が生命繊維に支配され餌にされるってやつと同じだ!!

 物語中でも一度は人類を餌にしようとサルをヒトに進化させた生命繊維だが、最後は反抗されて返り討ちに合いました。そ、生態系での一方的支配は長くは続かない、持ちつ持たれつのバランスが大事。食物連鎖の頂にいる捕食者も死んだらバクテリアなどの餌となり土へと還理、次の命を繋ぐ糧となる。これが食物連鎖で、生態系というシステム。 

 かくいう我々ヒトも複雑な生態系を宿した存在(マイクロバイオーム:microbiome)なのだ。すっかり前置きが長くなってしまったが、ここからが本題。

要は、我々が健康でいるためには己に棲まう微生物たちと上手に協力しないとならないということ。本書を読む上で私が面白いと思ったポイントを抜粋して見たので、興味が湧いたら読んで見てほしい。

*ヒトも微生物と共生する細胞集団(超共生体)

 ヒト(宿主)に棲まう(寄生or共生する)微生物たちの総称をマイクロバイオータという。ヒトの持つ遺伝子はたった2万ちょいであるのに対し、マイクロバイオータの持つ遺伝子は40万を超える。

*めんどくさい仕事(代謝)はアウトソーシング

 ヒトの持つたった2万ちょいの遺伝子だけではヒトの生命活動を支えるだけの代謝をカバーしきれない。そこで、マイクロバイオータに住みかを提供する代わりに、特定の代謝を外注するよう進化してきた。そうすることで、宿主自体が持つ遺伝子は少なくて済む。ヒトで言えば、腸内細菌による摂取した食物からのビタミン類の合成など。宿主にとって利益となる働きをしてくれる微生物が所謂、有用微生物であり、特定の種に固定される訳ではなく、宿主の望む働きさえすれば良い。ということは、利害の一致する有用細菌群を保持した個体は生存に有利であり、そのような有用細菌群を子孫に継承する戦略をとる種が優位となり、実際、それらは遺伝する。

*大量殺戮兵器 抗生物質の光と陰

 感染症の特効薬、まさに命を救う薬の抗生物質。その性質上、標的病原菌以外の似たような有用細菌まで殺戮する一面もある。使い方を誤ると、有用細菌が死滅した空白地帯に別の有害細菌が定着すると、重篤な消化器疾患などを発症することがある。

*21世紀病の出現と対応

 先進諸国で急増している、肥満、Ⅰ型糖尿病、自己免疫疾患、アレルギーといった免疫系疾患、過敏性腸症候群自閉症うつ病などの疾患とマイクロバイオータの組成変化に関係があることが近年の研究で明らかになりつつある。

*マイクロバイオータの母性遺伝

 人間の場合。子宮の中にいる胎児は無菌状態。羊膜を破り産道を通り生まれてくる時に、母親から有用細菌の移植がなされる。有用細菌の新生児への入植というべきか、母親によって選ばれたエリート細菌が新生児の腸や表皮へ入植する。母親と良い関係を構築している細菌は、ゲノムがほとんど同じ我が子とっても有用であり、病原性細菌の定着を防ぐことでもある。しかも、母乳には新生児の栄養分の他に、そうした細菌や彼らの餌となる成分まで入っており、新生児の腸内に確実に有用細菌を定着させようとしているのだから驚きだ。母はやっぱり偉大だ。ミトコンドリア母性遺伝と同じだ。

 

 ミトコンドリア葉緑体の内部共生によって真核生物に進化した。その内部共生体を有する多細胞生物は、その個体を維持存続、繁栄するためにそこらの細菌と手を組むことで、より複雑な生物種へと進化した。このマイクロバイオータとの関係は“細胞外共生=細胞間共進化”といっても良いと思う。

お前は受験に落ちた回数をおぼえているのか?『科挙』

科挙―中国の試験地獄 (中公新書 (15))

冬休みが終わった。

忘年会もしたが、やっぱり今年が終わった気はしない。

なぜなら、もうすぐ、センター試験があるからだ。

受験が終わらなければ、肩の荷は降りない。

生徒も必死だが、我々教師も必死だ。

 

今でもよく授業中に話すが、

いつの時代も試験というのは厳しかった。

今の受験より、昔の試験のほうがよっぽどきつかった。

 

そんなこと話すとき生徒に紹介するのが、今回の本だ。

本書のタイトルともなっている「科挙」とは、中国の官吏登用試験である。

以前の中国では、「徳の高い人」を偉い人が推薦するという方法で選んでいたのだが、

これではどうしても縁故採用になってしまい、能力ないものが高い地位についてしまう。

そこで、隋唐ではじまったのが、身分に関係なく試験で役人を選ぶ科挙であった。

地方レベルの予備試験が何回か行われ、最後に選ばれし者が最終試験に臨み、

成績順で高い位についていく、とても単純明快な仕組みだ。

(宋代には、最後に殿試という皇帝陛下による最終面接も加わった。)

 

試験内容は、今のような国数英理社のようなものではない。

簡単に言えば、膨大な儒教の経典の丸暗記試験。

「◯◯の何ページの何行目に何と書いてあるか」みたいな。

(現代のアクティブラーニング(笑)も真っ青の知識偏重!)

こんな試験に受かって官僚になるのは至難の業。一発で受かるのはよっぽどの天才。

地方試験を突破するのに、何浪もしてしまうのが普通だ。

(白髪のおじいちゃんが受けに来ることもあったという。)

カンニングする奴もいたらしい(服の裏地にびっしり書いたカンペが残っている)。

 

では、なぜ、皆この試験に必死になるのか。

それは、科挙に受かって官僚になることができれば、

親子孫の3代が親戚一同働かずに生きていけるだけのお給料と賄賂が手に入るのだ。

だから、一族の中で見込みのある子どもに、財力の全てをかけて、優秀な家庭教師を雇って期待をかけた。(家庭教師の多くは地方試験レベルでとどまった浪人生)

 

だから財力のある家の奴が科挙に受かりやすかった。

結局、「身分を問わず」は建前で、実際に蓋を開けてみると、合格者は身分の高い官僚の子弟がほとんど。官僚になり、金を稼いで、その金で子どもを官僚にして、その子どもは・・・の繰り返し。

科挙の理想は実現しなかった。

 

今の時代も似たような状況だと聞いたことがある。

東京大学の合格者の平均所得はやっぱり高いのだ。

格差は再生産される、いつの時代も変わらない。

 

お隣の韓国や中国は、相変わらず受験地獄のようだ。

中国は、共産党員になれれば親子孫3代安泰で、共産主義も真っ青の格差社会

韓国は、浪人不可システムで受験に落ちたらお先真っ暗で、若者はエリートに対して不満を持つ。

これらの不満はどこに向かうのか。

 

受験というシステムを見ることで時代が見えてくる。

 

ポケモン厳選に熱を上げる生徒諸君に言いたい。

 

君たちも、社会から厳選されているのだ。