知の望遠鏡

文系教師と理系研究員の本の紹介を中心としたブログです。

ひねくれ者の名言集『ラ・ロシュフコー箴言集』

運と気まぐれに支配される人たち―ラ・ロシュフコー箴言集 (角川文庫)

 

先日、卒業式を迎えた。

生徒にとっては一生に一度のことだが、教員にとっては毎年のイベントの1つだ。

そこでいつも困るのは、スピーチだ。

人前で喋らなければいけないことが多く、何か「良いこと」を言わねばならないのだ。

そこで、便利なテクニックは偉人の「名言」を引用することだ。

これを使うことで、何か説得力のあるいい話ができるのだ。

 

今日紹介する本は、そんな時に全く使うことができない、というか絶対使っちゃいけない「箴言」だ(名言ではないく、箴言だ)

こんなものが収録されている。

「我々は、期待があって約束をし、心配があってこれを守る。」

「誰しも、記憶力の悪さを嘆く。そのくせ判断力の悪さは嘆かない。」 

「人はせっせと善行を積む。あとで悪事を働いても大目に見てもらえるように。」

「人は普通、褒めてほしいから、褒めるのだ。」

「我々は、自分の意見に与する人ではないと、良識の人とは考えぬ。」

「老いた狂人は、若い狂人よりも、さらに狂っている。」

「我々が、自分の欠点を白状するのは、ただ虚栄のためである。」

「恋をしても、あまり愛さないことが、愛されるための確実な方法である。」

・・・

作者のラ・ロシュフコーは17世紀のフランスの貴族である。詳しくは、フランソワ・ド・ラ・ロシュフコー - Wikipediaを参照されたい。

彼の箴言には、とにかく皮肉の効いたものが多い。

人間の弱い部分や嫌な部分を少ない言葉で徹底的に暴き立てる。

自分にもそういう部分があるここを感じ、読んでいて恥ずかしくなる。

そんな言葉が、多数収録されている。

 

なかなか使いどころの難しい言葉たちだ。

 

でも、スポーツ選手が言うような無駄に前向きな名言は、私はあまり好きになれない。

前向きな言葉は、時にナイフのように自分の心をえぐってくる。

彼の言うような全力で後ろ向きな「箴言」のほうが、私は好きだ。

人間は皆弱いということがわかり、自分は一人じゃないと感じられる。

妙な安心感が得られる、そんな言葉でもある。

 

人生に疲れたあなたに、ぜひ読んでほしい。