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知の望遠鏡

文系教師と理系研究員の本の紹介を中心としたブログです。

マキャベリズムからノブレス・オブリージュへ『戦場の精神史』

 戦場の精神史  ~武士道という幻影 (NHK出版) 

皆さんは、武士道という言葉を聞いたとき、どのようなイメージを描くであろうか。

正義。

名誉。

忠義。

 などなど、おそらく、「義を何よりも重んじて主君に忠誠を尽くす」を想像する人が多いと思われる。しかし、このような美しき武士の姿は、幻想でしかないと喝破するのが本書である。

 

 実は、現代の我々が武士道に描くイメージというものは江戸時代から明治時代にかけて作られていったものであり、武士が活躍した鎌倉・室町時代における武士道のあり方とは根本から異なるものなのである。

 

 鎌倉・室町時代において、武士道とは「どんな手を使ってでも生き残ること」、これに尽きるのである。生き残るためには、謀略・裏切り・略奪などどのような卑怯な手を使っても構わない!というような非常にマキャベリズム的な考えなのである。

マキャヴェリズム - Wikipedia

人の憎しみと暴力が蔓延するリアル北斗の拳の世界において、いくら綺麗事を言っても、何の役にも立たず、ただ「ひでぶ!」といって死んでしまうのが落ちである。

「北斗の拳」に学ぶ - 第12巻 P182〜189 無抵抗主義の村 -

では、なぜ江戸時代に入り、武士道のイメージが大きく変わったのか。

それは、泰平の世となり、武士は「戦う」ことができなくなった、武士としてのアイデンティティを失ったのである。その中で、新たに生み出されたのが「士道」でなのである。

士道は、武士を「特権階級の支配者」としてとらえ、支配層として農民や商人などの模範となるように倫理的に生きねばならないと武士に説くものである。いわゆるヨーロッパ中世における「ノブレス・オブリージュ」にあたる考えなのである。

ノブレス・オブリージュ - Wikipedia

こうして、江戸時代に生まれた「士道」が、明治時代に新渡戸稲造などによって再解釈され、日本の「Bushido」として国内外に広まっていたのである。

 

 本書では、このようなことが、多くの史料が引用されながら説明されている。

 

最近は大河ドラマ真田丸』の人気もあり、武士の時代に興味を持たれる方も多いだろう。しかし、我々はどうしても、どうしても現代的な観点から見てしまいがちである。本書を読むことで、当時の「あたりまえの価値観」を身につけることで、また違った見方ができるに違いない。興味を持たれた方は、ぜひ読んでもらいたい。

 

追記 

 大河ドラマ平清盛」も、おすすめである。本書で示されている真の武士のあり方が、きっちり描かれている。(保元の乱の時、貴族・藤原頼長が「夜襲は卑怯!」と武士の提案を却下するシーンはいかにも示唆的である。)