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知の望遠鏡

文系教師と理系研究員の本の紹介を中心としたブログです。

地球の熱エネルギーが私たち生命を創った⁉︎ 『生命誕生〜地球史から読み解く新しい生命像〜』

生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 (講談社現代新書)

 何故我々は存在しているのか?その理由を探求するのが哲学・宗教である。この分野については介氏にお任せするとしよう。
 対して、如何にして我々は今ここに生きるに至っているのか?を説明するのが科学である。宇宙の成り立ち、宇宙の法則を解き明かすのが宇宙物理学、量子力学などであり、生命の神秘について探究するのが生物学である。・・・と本書を読むまでは思っていた。

  『地球の進化とは、熱の放出によるエントロピーの低下による構造の秩序化である。(本文より抜粋)』

  いやぁ、考え方が変わりました。

  たとえ生命といえども、宇宙に存在する物質の集合体であり、これは地球や星々と全く同じである。ということは、宇宙の物理法則、エネルギーの流れに従うということであり、特別な存在ではない。宇宙を一つの反応系ととらえたとき、地球も我々を構成する細胞ひとつひとつもその反応系の一部である

  大学で生命進化について、分子生物学的観点から学んではいたが、本書で説かれているような、地球のエネルギーを主体とした仮説は正直驚いた。地球のエネルギーの変遷の延長に生命の誕生及び進化があるというのである。乱暴な言い方ではあるが、要は、熱力学第2法則の帰結が生命と呼べる存在の発生と進化を生んだというのである。
誕生直後の溶岩の塊であった熱々の原始地球がエネルギーを放出し、徐々に冷えていくに従い、内部構造として地球核やマントル地殻、地表には海、大気層の階層構造ができあがった。
   味噌汁を例に出そう。湯気立ち上る熱い味噌汁を観察すると、味噌の粒子が活発に対流しており、味噌汁溶液は均一であるように見える、これが誕生直後の熱々の地球である。味噌汁が冷えていくにつれ、味噌の粒子が底に沈殿して味噌汁が2層に分離した階層構造ができる、これが現在の冷えた地球にあたる。
  大事なのは熱放出に伴い、エントロピーが減少し秩序化すること。ここでの秩序化とは、生命を構成する軽元素が分子(アミノ酸や糖などの有機物)を形成することだ。
  こうして作られた軽元素分子ー生命の部品となるものーが在るだけでは生命とはならない。これら分子種が外界と空間的に分離された何らかの小さな反応系に隔離、濃縮され、かつ、連続して反応を持続させる状態がいかにして構築されたのか?本書では地球内部からの熱放出ーエネルギーの流れーが生命の部品から最初の細胞を生み出したとの仮説を述べている。この部分が最も面白いので是非とも読んでいただきたいところである。

  どのようにして生命が誕生したのか?21世紀の今も解明されていない。現在、RNAワールド仮説など多く仮説が提唱されているが、そのもっと根本的な部分について、RNA分子や細胞膜などちった構造体は如何にして出来上がったかの納得のいく説明はまだ無い(大学の講義では聴かなかった、今の学生はその辺りについて聴いているのかもしれないが…)。本書は地球進化と生命進化を繋ぐ新たな知見を示す良書である。理系に進みたいと思う高校生には是非読んでもらいたい1冊だ。

  マクロな地球進化とミクロな生命進化、一見全く別物のようだが、その実、密接に関わりあっている。惑星進化も生命(細胞)進化もエネルギーの流れという観点からすれば、カタチは違えども同じものなのかも知れない。そう考えてみるのもロマンがあって面白いものだ。