知の望遠鏡

文系教師と理系研究員の本の紹介を中心としたブログです。

相反する2つのベクトルで駆動する幸運を蓄積するシステム〜生命というオートマタ(自動機械)〜 『生命のからくり』

生命のからくり (講談社現代新書)

 生命進化に関する考え方も様々である。前回に続いて生命進化に関する1冊。今回は、情報蓄積システムとしての生物進化だ。

  正直、本書で述べられている考え方は非常に衝撃を受けた。
生命を『情報を蓄積する動的システム』として捉えている点である。

  生命は矛盾を内包した存在だ。
  生命にとって『自分と同じものを作る』ことと『自分と違うものを作る』ことの相反する2つの性質が必須であるためだ。
前者は、種の存続のため自分と同じ子孫を残すこと、すなわち、『静』の性質。対して、後者は、サルから進化してヒトが出現したり、環境変化に適応したものが出現したりする、いわば『動』の性質。すべての生命はこの相反する2つのベクトルを抱え、今も少しずつ進化を続けている。生命はこれらの矛盾する『静』と『動』のベクトルにより駆動する“からくり”を持っている。

  本書では、この“からくり”の正体がDNA分子であると説く。
この二重らせん構造の生命の設計書DNAは『自分と同じものを作る』ことと『自分と違うものを作る』相反する2つの性質を備えた分子なのである。言い換えれば『情報の保存』と『情報の変革』の2つのベクトルを有する分子だ。子孫を残す際に、『情報の保存』と『情報の変革』ベクトルが繰り返し作用することで、生存にとって有用情報が蓄積されていくサイクルとなる。
  ざっくり言えば、基本的には親と殆ど同じ情報(情報の保存;種の保存)を与えるが、ほんの一部だけ違う情報(遺伝情報の変異;環境適応、進化の原動力)を子に与える。ここに、ダーウィンの言う自然選択が働き、環境に適応できた『幸運な変異体=子』のみが生き残り、子孫を残す。このサイクルが何回も繰り返された結果、生存にとって有用な遺伝情報が蓄積されるのだ。
  しかもこのサイクルは閉じた円環ではなく、有用情報(幸運)を蓄積しながらが外に広がり続ける螺旋状のサイクルであるというのだから、読んだ時は胸が熱くなりました。

  今に生きる私たちすべての生命は、生命誕生以来数十億年という時間をかけて幸運を蓄積してきた存在でり、今もなお、幸運を貯めこむ“からくり”を動かしているのである。

  新書本でありながら膨大な情報が詰まっているにも関わらず、専門用語は少なく、“生命のからくり”システムを1つ1つ丁寧に説明しているため、理解しやすいオススメの1冊だ。生命進化分野における“コペルニクス的転回”と言っても過言では無いと私は思うのだ。

余談
『俺たちは、一分前の俺たちより進化する、 一回転すればほんの少しだが前に進む、 それがドリルなんだよ!』
本書を読み進めていくうちに、『天元突破‼︎グレンラガンというアニメの最終話で主人公のシモンがラスボスに放ったこの台詞を思い出しました。