世界の果ては折りたたまれて、世界の内側にもぐりこんでいるー「ペンギンハイウェイ」&「夜行」ー
読者諸賢、ごきげんよう。
一週間ぶりのご無沙汰である。
森見氏の小説といえば、京都を舞台に知的ではあるのだがなんだか面倒臭い腐れ大学生あるいはタヌキが主人公の物語が多い。
今回は京都が舞台でなく、腐れ大学生も主人公でないSF作品である。
森見氏のSFものは得体の知れぬものが背後にいるような、何か怪談の雰囲気があるように思える。
Science Fiction要素があるのだけれども、読み進めるうちに薄気味悪さも付随してくる。
○
『ペンギンハイウェイ』
夏。ミステリアスなお姉さんと知的な「アオヤマ」少年とのペンギンから始まる物語
アオヤマ少年はとても賢い。自分で賢いと言ってしまうほどに。
小学生にしては腹立たしいほど知的で論理的思考の持ち主であり、ある意味、理系の模範的思考形態の持ち主である。
そして、小学生という身分を利用して知的でありながら痴的な発言をする。
怒りそうになったら、おっぱいのことを考えるといいよ。そうすると心がたいへん平和になるんだ。ーアオヤマ少年、友人に語るー
大人が言うと犯罪だが、小学生だから赦される、まさに特権乱用の極みである。
本作にはおなじみ「黒髪の乙女」は出て来ないが「お姉さん」が登場する。
この「お姉さん」、「四畳半神話体系」の羽貫さんのような人物であるが、アオヤマ少年のおっぱい発言にも怒らず対応する大人物である。
お姉さんや少年のお父さんが少年を見守る姿勢があたたくていい。
時折、少年へと投げかける言葉には温かみがあり、また、読者の私も深く考えさせられるような台詞が多いのも本作の魅力である。
○
『夜行』
今回はジャケ買いであった。
表紙には白い服を着た清楚で可憐な乙女が描かれているではないか。
これは『夜は短し歩けよ乙女』のごとく、黒髪の乙女の物語に相違あるまい!と勢いで買うに至ったのだ。
はてさて、今回はどんな「黒髪の乙女」が登場するのかと期待に胸を膨らませて読み進めていったのだが・・・
なんということだ。
「黒髪の乙女」は出て来ぬではないか。
「黒髪の乙女」は出て来ないが「彼女」をめぐる物語である。
儚く美しいものはおそろしい。
あちら側へ誘う「彼女」。
語り手が複数人おり、交代して語られる構成なのだが、その内容がどうにも薄気味悪いのだ。
ホラーとまではいわぬまでも、モヤモヤしたものを抱えつつ読み進めていく具合である。
物語の核心は何か?を推理しながら読むうち、この薄気味悪さ感も後ろをついてくるのだからたまったものではない。
完全に作者の術中に嵌り、掌の上で弄ばれていたのだ。
さながら、百物語を聞いているようなものだ。
最後はオセロをひっくり返すような展開であり、納得のいく面白さではあったのだが、どうしてだろう?なぜだが私は少しゾッとした。
読み終えた後、森見氏は新しい境地を開いたのだと思った。
最近の『有頂天家族』や『恋文の技術』のようなポップでユーモラスな物語とは180度違う作風であったが、読んでいて非常に面白かったし、こうしたテイストの氏の作品に期待したい。
『夜は短し歩けよ乙女』に続き『有頂天家族』アニメ2期が放送されるようで、今年は森見作品を堪能できる1年となりそうだ。
前者のキャラデザは中村佑介、後者は『絶望先生』の久米田康治。
いずれも私の好きな作者であるので一度で2度おいしいとはまさにこのことである。