知の望遠鏡

文系教師と理系研究員の本の紹介を中心としたブログです。

組織の維持には敢えて働けない者がいることが大事!!「働かないアリに意義がある」

働かないアリに意義がある (中経の文庫)

何故生き物たちは群れるのか?生き物たちが作り上げる社会とは何ぞや?

会社の一員として、社会の一員として、組織の中で働くというのは辛いものだ。

「働かざる者食うべからず」の諺しかり、社会はキビキビ働くことを求めてくる。

特定の人間への仕事の集中、長時間労働の常態化、そして相次ぐ過労死問題。こうした問題は人間だけなのか?

 自然界に目を向けると我々人間と同じくらいキビキビと労働に勤しんでいるやつらがいる。そう、アリやハチなどの社会性昆虫だ。

 アリやハチなどのコロニーという社会を作る生物(真社会性生物)はコロニーの主たる女王と王、そしてコロニー運営を実行するワーカー(働きアリや兵隊アリなど)により構成される。女王のために働きアリたちが奴隷のように働かされているイメージがあるが、実際はそうではないようだ。

 人間社会と違い、アリ社会には上司がいない。つまり、上意下達の命令系統もない。では、一体どうやって働きアリたちは労働の判断をしているのか?ざっくりいうと、個体間における仕事に対する感受性、すなわち、反応閾値に差がある。些細な仕事にでもキビキビ働くアリもいれば、切羽詰まった状況にならないと働けないアリもいるというのだ。驚くべきことに、働かない働きアリはおらず、働きたくとも働けぬ働きアリがいるという事実である。

 一見、クローンのようにしか見えない働きアリだが、仕事に対する感受性が鋭いか鈍いかという違いが各働きアリによって設定されている。これにより、コロニー全体での仕事に量対し必要な労働力が動員されるという非常にフレキシブルかつ効率的な労働システムが成り立っているのである。

 ここで、重要なのは反応閾値が高い働きアリ(仕事に対する感受性が鈍い)はサボっているのではなく、反応閾値が低い働きアリ(仕事に関する感受性が鋭い)がさっさと目の前の仕事をこなしてしまうため、前者の働きアリは働きたくとも働けないのだ。しかし、コロニーの仕事量が増え反応閾値が低い働きアリたちで処理できなくなってきたときが、反応閾値の高い働きアリの出番なのである、この際、それまで業務を行なっていた働きアリの一部と交代する。つまり、コロニー全体を存続させるため、常に過不足なく労働力を保つシステムなのだ。働きアリの反応閾値に差があることで、仕事量に応じた働きアリが労働に従事するため、全ての働きアリが動員されずに済む。ここが重要だ。働きたくとも働けぬ働きアリがいることで、余剰労働力が生まれ、労働に疲弊した働きアリと交代できる、そう、過労死しないのだ。

 ほんと生物ってうまくできている、無駄がない。

 本書はアリの社会についての内容であるが、ヒトの作る社会も基本的には同じなのではなかろうか?最近はやたらと“多様性社会の推進”や“企業内のダイバーシティ化”などと声高に騒がれているが、むしろ、合理化、効率化を推し進めている人間社会よりアリ社会の方がよっぽど合理的かつ効率的であるようにすら思える。

 仕事をサボれとは言わないけど、組織内での仕事量の分配は一律化せず、常に余剰労働力がストックされた状態にあることがベストではないか?仕事なんてものは定常化したものでなく、突然のトラブルなどで一気に仕事量が増加するものだ。社員の個性も大事だけども、仕事量の多様化も必要なのではないか?

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