生物学と人類学の2つの学問を繋げ‼︎『発酵文化人類学〜微生物から見た社会のカタチ〜』
ご無沙汰しております。
今回も表紙買いの一冊です。
「発酵文化人類学」とは、けったいなタイトルにしたもんですなぁ。
著者の造語なのですが、読んでみるとこれがまたよくできております。
ちょっと専門知識が増えてきた大学生が食いつきそうですね。
【要約】
・発酵とは微生物がヒトにとって有益な働きをしてくれること
・微生物のチカラを使いこなすことで、人類は社会を作ってきた←NEW
てんこ盛りの内容なのでざっと目次だけ抜粋します。
文系理系(主に人文系、生物・農学系)を問わず、興味を引くような目次であるように思います。
・ホモ・ファーメンタム~発酵する、故に我あり~
・風土と菌のブリコラージュ~手前みそとDIYムーブメント~
・制限から生まれる多様性~マイナスをプラスに醸すデザイン術~
・ヒトと菌の贈与経済~巡り続けるコミュニケーションの環~
・発酵的ワークスタイル~醸造家たちの喜怒哀楽~
・よみがえるヤマタノオロチ~発酵の未来は、ヒトの未来~
目次だけでも何やらオモシロそうな香りがプンプンしてきます。
前半)
発酵とは何ぞや?発酵というツールを手にしたヒトがどのように文化を築いていったか
中盤)
生物学の「生物におけるエネルギーの代謝」と人類学の「異文化間での交換儀礼」の2学問をミックスさせた少し難しい内容←個人的にはここが一番インパクトを受けた(以下、ちょこっと紹介)
後半)
伝統的発酵文化を見直し、現代の知識、技術でもって再構築する醸造家や杜氏の取り組み
◾️ヒトと菌の贈与経済~巡り続けるコミュニケーションの環~
筆者曰く、レヴィ=ストロース、マルセスモース、ベイトソンら文化人類学者の概念を組み込んでいくと
『自然と人間が渾然一体となって織りなす生命の贈与のネットワーク』
が生態系であることが再発見されるという。
この、生きているものの世界の環とは
レヴィ=ストロースの見た神話世界の原理であり、マリノフスキーが見たトロブイアンド諸島の交換儀礼であり、ベイトソンが見た精神と生態系を繋ぐネットワークであるという。
そして、文化人類学的側面から論じれば、
異なる世界に住むように見える生物たちが、レイヤーを超えて贈り物を交換し合う(=贈与する)ことで、結果的に生態系が出来上がっていく。そして互いに副産物を贈与し合うことにより、社会秩序が生まれる(生態系の環)というのだ。ふむ、なかなかに面白い考察です。詳しくは本書を読んでいただきたい。小難しい内容はこの章だけで、全体的には読みやすい内容で内容なので。
この章で述べられた、副産物を贈与し合う不等価交換の原則、微生物による全体的給付のあたりを読んで、漫画『鋼の錬金術師』最終話でのアルフォンス=エルリックのこの台詞を思い出しました。
『10もらって10返してるだけじゃ同じなので…
10もらったら自分の1を上乗せして11にして次の人へ渡す
小さいけど僕達が辿りついた「等価交換を否定する新しい法則」です
これから証明していかなきゃいけないんですけど』
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学問的に正しい解釈かどうかは置いといて、生物学的視点からしか見れなかった微生物発酵と人類との関わりについてを別分野の知見でもってリミックスしたのが非常に面白かったですね。
また、筆者は章末に考察の元ネタとなった文献を紹介しており、気になった本をすぐ探せるようにしているのが好感を持てます。
以前、介氏がレヴィ=ストロースの「悲しき熱帯」の話をしていたことがあったので、本書の内容は文理融合学問として介氏とがっつり議論できそうですね。
ちなみに、触発されやすい気質の茸氏は早速も手前味噌仕込みに興味深々であります。
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